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自伝大木金太郎 伝説のパッチギ王



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自伝大木金太郎 伝説のパッチギ王
大木 金太郎
自伝大木金太郎 伝説のパッチギ王
定価: ¥ 1,575
おすすめ度:
発売日: 2006-12-15
発売元: 講談社

大木には聞きたいことがいまでも山ほどある
 全編から沸き立つ力道山への思慕の情。馬場、猪木がともすれば、力道山の弟子であることを商売に使うのに対して、大木だけはきちんとまじめに情熱を傾ける。ファンが大木に惹かれるのは、その純情にである。
 この本は、韓国の新聞に連載していたものを単行本化したものだという。なるほど、他の指摘にあるとおり、韓国版「私の履歴書」だろう。韓国のファン向けならこれで良かろう。英雄・金一の物語は読者に感動を与えるやもしれぬ。
 しかし、同じ物を日本で公開するっちゅうとなると、これだけではやっぱ、ねぇ。レビューを書いた人みんながそう言っているではないか。

 日本のプロレス史はこれまで馬場、猪木の側からという“勝者の歴史”で語られてきた。しかし、そうではない、別の歴史というものがあり、大木が本を出すといえば、みんなそれに期待するのは当たり前ではないか。
 大木にしてみれば力道山がつくった日プロを結局、潰したのは猪木であり、馬場だろう。
 ▽猪木に除名を言い渡した選手会長としての心情▽日プロ崩壊時の合流とインターのベルトを取り上げられてまで参戦という、二度までも馬場の軍門に下ったのはなぜか▽猪木と馬場に連続挑戦しながらあの結果はなぜ甘受したのか▽新日のワールドリーグで坂口と闘い「わからない」を連発したのはどういうことか▽日プロ最後のパートナー(しかし後に闘った)上田馬之助、レスラーとして最後のパートナー・ラッシャー木村をそれぞれどう思ったか▽骨を埋めるはずだった国プロ。。。

 大木に聞きたいことは山ほどある。なのに、なんにも書いていない。一切触れていない。クリアしなければならない問題(馬場のこのセリフも懐かしいが)がクリアされないのであれば、わざわざ日本で本を出す必要はないのではないだろうか。

「自伝大木金太郎」ではなく「自伝金一」
「金一」の力道山賛歌、馬場・猪木らへの同志的思いを知るには好書だ。
力道山とヤクザのつながりを、善意というフィルターからだが率直に語っているし、
馬場・猪木以外にも小鹿、星野ら何人かのレスラーについて触れている。
「元祖韓流スター」の件や自らの女性との交際についてさりげなく触れていたのもいい。
しかし、日本プロレス→新日本プロレス→全日本プロレスと戦う場を移した
「大木金太郎」について知りたいというのなら、全く物足りない。

同書自体、1965年以後は「韓国に永住帰国した」と書いている。
つまり、それ以後の日本のリングは同書の主題ではないということだ。
しかし、「大木金太郎」を語るためには「それ以後」が大切なのだ。
国際プロレスに殴り込もうとして踏みとどまったのは68年、坂口ではなく自分が
インター王座を取ったのは72年、坂口派ともめた挙げ句日プロが崩壊したのは73年、
日本で「外人陣営」として活躍した70年代後半から80年代前半の全日時代、短期間だけファイトし、
いつの間にか去った国際プロレス時代などについて、その背景や真相を全く語っていない。
たとえば、猪木に対しては本当に同志的友情だけなのか?
猪木の東京プロレスからの復帰や坂口の入団で、大木は馬場に次ぐナンバー2から
さらに後退する自分を予想したからこそ、韓国に自分の居場所を作ったのではなかったのか。
おうおうにして、自伝は綺麗事や自分本位の書き方になる。
でも自分本位でもいいから、それらについて触れて欲しかったと思うファンは
少なくないだろう。

伝説の主人公はもう語らない……
 本書の中で興味深い箇所が全く無いわけではない。密航前の韓国での生活、逮捕、拘留されてからの「闘い」等。しかし、本書は総じて、「昭和のプロレスもの」を「唸らせる」ものとはなっていない。韓国の新聞に連載された「自伝」をまとめたという「装い」が、本書を「昭和プロレス」から、乖離させてしまったのだろう。

 80年代に完全断裂してしまった「韓国プロレス界」と紆余曲折ありながらも今だ「力道山の遺産」が残る「日本プロレス界」では、同じ「プロレス」でも似て非なるものである。決定的な違いは「観る側の差」であろう。日本のプロレスファンはプロレスを「リング内」だけの「話」にはけっしてしないのだ。

 「昭和のプロレスもの」にとって「大木金太郎」が韓国では「キム・イル」である、なんていう名前の「違い」なんて、どうでもいいのだ。

 大事なことは「大木金太郎」が、日本プロレス界において、既に「伝説」であったことだ。
その「伝説」とは、表層において、「馬場・猪木」のそれには格段に及ばないが、「その実」はけっして軽んじられるべきものではない、「日本プロレスの歴史」だった。

 力道山は自分の後は「馬場・猪木・大木」の時代にする予定だった。が、力道山亡き後のプロレスは「馬場・猪木の時代」だった。なぜ、「大木」がそこで抜け落ちたのか……。抜け落ちはしたが、「大木金太郎」は消えなかった。「力道山一番弟子を自負する大木」からすれば、「消えるわけ」にいかなかったろう。「消えはしなかった」が「抜け落ちた」という「現実」を受け入れることが「大木金太郎のプロレス」だったのだ。

「力道山一番弟子」を「自負」する「大木」が「日本プロレス界」から「抜け落ちなければ」ならなかった「日本のプロレスの真実」こそ「大木金太郎伝説そのもの」だったとも言えるのではないか。それは「弟弟子の馬場・猪木時代」の陰の中、大木にとって「壮絶な闘い」だった筈である。

 本書は残念ながら、そんな「大木金太郎伝説」には全く触れらていない。あくまで「韓国のパッチギ王伝説」が主体なのだ。必要以上の「美化」もなければ「誇張」もない本書は、「自伝」としては違和感もなく幅広い人に受け入れられるかもしれない。

 が、しかしである。「大木金太郎伝説」を期待した「昭和のプロレスもの」にとっては、少々寂しいものとなっている。著者がもういないという事実が尚更「寂しさ」に拍車をかける。著者の笑顔とともに「伝説は天に昇った」のだ。
 
 ならば「昭和のプロレスもの」にとっては、「大木金太郎の秘めた思い」に「想いをよせつつ」、故人を偲ぶしかないようである。

「元インター・ナショナルチャンピオン」大木金太郎よ永遠なれ、である。

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